Setとは? オブジェクト変数の使い方とNothingの意味を解説
今回の目標
「Setって何? Long型やString型とは違うの?」と疑問を持ったあなたへ。
この記事では、Setの使い方から、とうしてSetが必要なのか、
Setの基本構文だけでなく、“やりがちな失敗例”まで、まとめて丁寧に解説します!
目標リスト
- Set について理解を深める
- オブジェクト変数を使用できるようになる。
- Nothing について理解する。
説明
Setとは
Workbook型やWorksheet型等のオブジェクト型の変数にオブジェクトを代入(=関連付け)するときに使います。変数にオブジェクト(正確には、オブジェクトのアドレス)を格納してオブジェクトを操作できるようにします。Setを使わないと変数はオブジェクトとつながらないため【実行時エラー 91】が生じます。(例外として、Dictionaryなどの一部クラスではSetが不要ですが、原則として必須です)
Setが必要なオブジェクト型一覧(一例です)
オブジェクトのデータ型 | 型名 |
---|---|
ワークブックオブジェクト | Workbook |
ワークシートオブジェクト | Worksheet |
レンジオブジェクト | Range |
グラフオブジェクト | Chart |
図形オブジェクト | Shape |
テーブルオブジェクト | ListObject |
コレクションオブジェクト | Collection |
ピボットテーブルオブジェクト | PivotTable |
名前定義オブジェクト | Name |
ファイルオブジェクト | File ※1 |
フォルダオブジェクト | Folder ※1 |
ディクショナリーオブジェクト | Dictionary ※1 |
(オブジェクト型なら格納可能) | Object ※2 |
※1 File, Folder, Dictionary は参照設定より「Microsoft Scripting Runtime」の有効化が必要です。
※2 Object型は、Workbook型やRange型等のオブジェクト型を格納できますが、メソッドやプロパティの候補一覧が表示されません。そのため、メソッド名等を手入力する必要があり、作業効率の低下、メソッド名のタイプミス等を招きます。
初心者の方は「(下表の)値型"以外"の変数は、Setが必要」と覚えておくとよいでしょう( •̀ㅂ•́)و 。最初は難しく感じても、何度か使っていくうちに自然と慣れていきます。
Setが不要な値型一覧
データ型 | 型名 |
---|---|
整数型 | Integer |
長整数型 | Long |
単精度浮動小数点数型 | Single |
倍精度浮動小数点数型 | Double |
通貨型 | Currency |
日付型 | Date |
文字列型 | String |
ブーリアン型 | Boolean |
Setを使うタイミングは
オブジェクト変数にオブジェクトを格納する
変数の宣言後、オブジェクトを代入する際、左辺の変数の前に"Set"を付ける必要があります。
Dim wb as Workbook
Set wb = ThisWorkbook
Workbook型やWorksheet型の変数の最後に半角ドットをつけると、メソッドやプロパティの候補一覧が表示されます。
メソッドとプロパティは(語弊はありますが)簡単に言うと、メソッドはオブジェクト変数でのみ使用できる専用の関数、プロパティはオブジェクト変数でのみ使用できる専用の変数と覚えてください。
ただし、Object型で宣言した後は候補一覧が表示されないため、注意が必要です。
Setを使用するのは、変数とオブジェクトを紐づける時のみで、メソッドやプロパティを使用する時はSetを付ける必要はありません。
文字通り、Set=設定する、ということですね。
Functionプロシージャでオブジェクトを返す場合
Functionプロシージャでオブジェクトを返す場合、Function名で返す時と、呼び出し元で受け取る際の2か所でSetを使用する必要があります。
Function SampleSet1()
Set SampleSet1 = ThisWorkbook.Worksheets(1)
End Function
Sub Main1()
Dim ws As Worksheet
Set ws = SampleSet1
End Sub
【例外】引数でオブジェクト変数に参照先を格納する場合
Functionプロシージャの引数をオブジェクトを渡すことが出来ます。
なお、オブジェクト(オブジェクト変数)を引数にする場合、"Set"を付ける必要がありません。
Function SampleSet2(wb as Workbook) '← ここは Set 不要
'何らかの処理
End Function
Sub Main()
’マクロを実行しているブックオブジェクトを送る
SampleSet2 ThisWorkbook
End Sub
オブジェクト変数の参照を解除する
オブジェクト変数を初期化する時、Set が必要です。
Set 変数 = Nothing
Set 変数 = Nothing を使うと、オブジェクト変数の初期化(メモリの解放)を行うことができます。ただし、VBAでは自動的に初期化がありますので、通常は不要となります。詳細は、後述します。
☆ページ内リンク:Set 変数 = Nothing は必要?
Setの使用例
Setは先に述べた通り、変数の宣言後、オブジェクトを代入する際、左辺の変数の前に"Set"を付ける必要があります。
ブックをオブジェクト変数に代入する
Sub sample1_1()
'Workbook型の変数wbを作成する
Dim wb As Workbook
'変数wbに実行しているブックオブジェクトを参照させる
Set wb = ThisWorkbook
'実行しているブックを閉じる
wb.Close '←ThisWorkbook.Close と同じ
End Sub
シートをオブジェクト変数に代入する
Sub SetSample1_2()
Dim ws As Worksheet
Set ws = ThisWorkbook.Worksheets(1)
'実行しているシート名を表示する
MsgBox ws.Name '←MsgBox ThisWorkbook.Worksheets(1).Name と同じ
End Sub
Setを使うメリットは?
Setを使うメリットについてです。
主に次の2つがあります。
-
見やすさ(可読性)が大きく向上する
Set を使用するとプログラムが短くなり、読みやすくなります。
Setを使用しないパターンと使用するパターンを比較してみます。
まずは、Set を使用しないパターンです。Sub SetSample2_1() ThisWorkbook.Worksheets("Sheet1").Range("A1") = _ ThisWorkbook.Worksheets("Sheet2").Range("B2") ThisWorkbook.Worksheets("Sheet1").Range("C1") = _ ThisWorkbook.Worksheets("Sheet2").Range("D2") ThisWorkbook.Worksheets("Sheet2").Range("D1") = _ ThisWorkbook.Worksheets("Sheet1").Range("D3") ThisWorkbook.Worksheets("Sheet2").Range("D3") = _ ThisWorkbook.Worksheets("Sheet1").Range("D6") End Sub
次に、Set を使用するパターンです。
Sub SetSample2_2() Dim wsMain As Worksheet Dim wsConf As Worksheet Set wsMain = ThisWorkbook.Worksheets("Sheet1") Set wsConf = ThisWorkbook.Worksheets("Sheet2") wsMain.Range("A1") = wsConf.Range("B2") wsMain.Range("C1") = wsConf.Range("D2") wsConf.Range("D1") = wsMain.Range("D3") wsConf.Range("D3") = wsMain.Range("D6") Set wsMain = Nothing Set wsConf = Nothing End Sub
Setを用いて変数にすることで、役割を明示することができます。
-
Functionプロシージャの戻り値を設定する
Functionプロシージャの戻り値とする場合にSetが必要です。Function GetRangeObj(ws As Worksheet, ByVal 範囲 As String) As Range Set GetRangeObj = ws.Range(範囲) End Function Sub SetSample2_3() Dim rng As Range Set rng = GetRangeObj(ThisWorkbook.Worksheets(1), "C2:C5") rng.Interior.Color = RGB(0, 255, 0) ' 背景色を緑にする Set rng = Nothing End Sub
引数でオブジェクト変数を渡せば、戻り値にしなくても大丈夫だったりします。
ただし、可読性が著しく下がるため、お勧めしません。’長いプログラムだと、どこでrngの参照を設定したか分からない Sub SetRangeObj(ws As Worksheet, rng As Range, ByVal 範囲 As String) Set rng = ws.Range(範囲) End Sub Sub SetSample2_4() Dim rng As Range SetRangeObj ThisWorkbook.Worksheets(1), rng, "D2:D5" rng.Interior.Color = RGB(0, 255, 255) ' 背景色を水色にする Set rng = Nothing End Sub
Setのありがちなミス
Setを使用する際のありがちなミス3選です。
【実行時エラー 91】Setのつけ忘れ
これまで述べてきた通り、オブジェクトの参照を変数に格納する場合、変数の前に"Set"を付ける必要があります。
この場合「実行時エラー 91」が発生します。
'実行時エラー 91になる(Sheet1のセルA1に"a"を格納したかった)
Sub SetSample3_1()
Dim ws As Worksheet
'先頭に"Set" を忘れているため、エラーが発生する _
※「Set ws = Worksheets("Sheet1")」が正しい
ws = Worksheets("Sheet1")
ws.Cells(1, 1) = "a"
End Sub
【実行時エラー 438】存在しないプロパティやメソッドを参照
存在しないプロパティやメソッドを参照すると「実行時エラー 438」が発生します。
Object型へ想定していたオブジェクトと異なるオブジェクトを代入したケースがあります。他に、プロパティ名やメソッド名をタイプミスしたケースがあります。
Object型へ想定していたオブジェクトと異なるオブジェクトを代入したケース
'実行時エラー 438になる(ブックを閉じたかった)
Sub SetSample3_2_1()
Dim wb As Object
'"Worksheets" は不要(ミス)
Set wb = ThisWorkbook.Worksheets
'WorksheetsオブジェクトにCloseメソッドはない
wb.Close ' ←ここでエラーが発生する
End Sub
Object型でなく、WorkBook型で変数を作成するとオブジェクトの代入時に「実行時エラー13:型が一致しません。」とエラーメッセージが表示されます。
プロパティ名やメソッド名をタイプミスしたケース
'実行時エラー 438になる(シート名を変えたかった)
Sub SetSample3_2_2()
Dim ws As Object
Set ws = Worksheets(1)
'ws.Name が正しい(Namee になっている)
ws.Namee = "シート1" ' ←ここでエラーが発生する
End Sub
Object型でなく、WorkSheet型で変数を作成すると「コンパイルエラー:メソッドまたはデータメンバーが見つかりません。」とエラーメッセージが表示されます。
可能であれば、Object型を使用せず、WorkSheet型等を指定するようにしましょう。
【論理エラー】2つのオブジェクト変数が干渉し合っている
2つのオブジェクトを作成し参照先が同じオブジェクト
コンパイルエラーや実行時エラー等にならない論理エラー(プログラムは実行できるが想定と異なること)です。オブジェクト変数を2つ作り、同じ参照先を設定した場合、片方のオブジェクトを変更すると、もう片方のオブジェクトも変更されます。なぜなら、Long型等とは違い、オブジェクト変数は1つのオブジェクトを参照し、操作しているだけで実体は1つであるためです。
Sub SetSample3_3_1()
Dim wb1 As Workbook
Dim wb2 As Workbook
Set wb1 = ThisWorkbook
Set wb2 = wb1
'↓wb1のSheet1のセルA1も"Hello"となる
wb2.Worksheets("Sheet1").Range("A1") = "Hello!"
End Sub
SetSample3_3_1 と SetSample3_3_2は同じ結果になります。
Sub SetSample3_3_2()
Dim wb1 As Workbook
Dim wb2 As Workbook
Set wb1 = ThisWorkbook
Set wb2 = wb1
'↓【wb2】のSheet1のセルA1も"Hello"となる
wb1.Worksheets("Sheet1").Range("A1") = "Hello!"
End Sub
Set 変数 = Nothing は必要?
普通にVBAを使用する分には、不要となります。
なぜなら、VBAには、参照カウント方式という、オブジェクト変数の参照が完全になくなると、自動的にメモリが解放される仕組みがあります。
ただし、大きいプロシージャや大量のデータ、大規模な配列を使用する場合、メモリを解放する必要があります。
また、循環参照など特殊なケースではメモリが残ってしまうこともあるため、Set = Nothingを使って明示的に解放することが推奨される場面があります。
'Nothingの使用例
Sub SetSample4_2()
Dim ws As Worksheet
Set ws = ThisWorkbook.Worksheets(1)
MsgBox ws.Name '←MsgBox ThisWorkbook.Worksheets(1).Name と同じ
'オブジェクト変数を初期化(解放)する
Set ws = Nothing
End Sub
確認テスト
-
次の条件を満たすプログラムを作成しなさい。
マクロを実行しているブックの左から1番目のシートオブジェクトを取得する
シートオブジェクトより、シート名を「hoge」と変更する
【解答例】
Sub SetAnswer1() Dim ws As Worksheet Set ws = ThisWorkbook.Worksheets(1) ws.Name = "hoge" Set ws = Nothing End Sub
-
次の条件を満たすプログラムを作成しなさい。
マクロを実行しているブックの左から2番目のシート名をメッセージボックスで表示させる
シートオブジェクトを返すFunctionプロシージャを作成する
(引数は、シート名とする)【解答例】
' シートオブジェクトを返すだけのプロシージャ Function GetSheetObj(Byval sName As String) As Worksheet Set GetSheetObj = ThisWorkbook.Worksheets(sName) End Function Sub SetAnswer2() Dim ws As Worksheet Set ws = GetSheetObj(ThisWorkbook.Worksheets(2).Name) MsgBox ws.Name Set ws = Nothing End Sub